変化への個人的抵抗とその対処法
1.変化への抵抗
個人や組織行動に関する研究で最も多くみられる結論の一つは、組織とそのメンバーは変化に抵抗するということである。ある意味この抵抗は建設的である、抵抗は行動にある程度の安定と予測可能性をもたらす。抵抗がなかったら組織行動は混沌としたランダムなものとなることだろう。変革への抵抗は組織機能間の対立の原因になることがある。たとえば、再組織化の計画や生産ラインの変革への抵抗は、そのような考えのメリットについて健全な議論を促進し、結果としてよりよい決定を生むことである。しかし、変化への抵抗には決定的な欠点がある、それは、抵抗は適応と進歩を阻むということである。
変化への抵抗はきまった形で示されるとは限らない。抵抗は明白な場合もあるし、隠れている場合もある。すぐにあらわれる場合もあるし、後から出てくることもある。すぐにあらわれる明白な抵抗はマネジメントにとって対応が容易だ。変革が提案されると従業員が不満を表明してすぐに反応し、職務を遅延させ、ストライキをすると警告する場合がこのような例である。
対応がより難しいのは抵抗が隠れていて後から出てくる場合である。隠れた抵抗はとらえにくく、組織への忠誠心やモチベーションの低下、ミスや「病気」による欠勤の増加などの形で示され気付くのが難しい。行動が遅れて出てくる場合も抵抗の発生源とそれに対する反応の関係がとらえにくくなる。変革が実行された時には、ほんのわずかな反応しか見えないように見えても、数週間、数か月、時には数年後に反応が出てくることがある。ある変革がそれ自体はほとんど影響を及ぼさなくとも、それがきっかけとなって信じられない事態に陥ることもある。変革に対する反応が蓄積され、きっかけとなった変革行動から全く考えられないほどの規模で爆発する場合もある。もちろん、抵抗は単に遅れて出てきたのであり、蓄積させていたのである。表面に出たのは変革の蓄積に対する反応である。
抵抗がどこから来るか見てみよう。

2.個人的抵抗
個人レベルにおける変化への抵抗は、感じ方、人格およびニーズなどの基本的な人間的特性から生じることが多い。個人が変化に抵抗する理由を次の五つにようやくしてみた。
(1)習慣
人間は習慣の生物である。人生は十分複雑であり、毎日数百の決定においてすべての選択肢を一つひとつ検討する必要はない。この複雑さに対応するために、我々は習慣、つまりプログラム化された反応に依存する。変化に直面したとき、このように慣れで反応する我々の傾向から抵抗が生じる。
(2)安全
安全を強く望むものは変化に抵抗しやすい。完全だという感覚が脅威にさらされるからだ。
(3)経済的要因
変革により収入が減るという心配も個人の抵抗が生じる原因だ。確立している職務や業務のルーチンが変化する場合、新しいタスクやルーチンでは以前ほどの成果を出せないと心配すれば経済的不安が高まることになる。給与が生産性と密接に結びついている場合は特にそうである。
(4)未知に対する不安
変化によって、あいまいと不明確が既知にとって代わる。そして一般的に人は不明確なことを嫌う。組織の従業員も不明確なもとに同じような嫌悪を抱く。たとえば、クオリティマネジメントの導入により製造部門の従業員は統計プロセスの管理法を学ばなければならず、自分にはできないと不安に思う従業員もいるだろう。そこでクオリティマネジメントへの否定的な態度が形成されたり、統計技法を用いるように要求されると非生産的行動を示すかもしれない。
(5)選択的情報処理
個人は認知をとおして自分の世界を形成する。そしてこのような世界が一旦形成させると、それを変化することには抵抗する。そこで自分の認知世界を損なわないために、個人は選択的情報処理という罪を犯す。自分が聞きたいと思うことを聞き、自分が想像した世界を脅かす情報は無視する。クオリティマネジメントの導入に直面する製造労働者は、なぜ、統計の知識が必要かを説明する上司の議論や変革によってもたらされる潜在的利益を無視するかもしれない。

3.変化への抵抗を克服する
変化への抵抗に作用する要因は数多くあるものの、こうした抵抗を抑制するために変革のエージェントが用いることのできる方法がある。以下はそうした五つの方法を簡潔にまとめたてみた。
(1)コミュニケーション
従業員が変革の論理を理解できるようコミュニケーションをとることで抵抗が薄らぐことがある。この方法は基本的に誤った情報やコミュニケーション不足から抵抗が生じているという考えによるものだ。従業員に十分に事実を伝え、誤解をただすことができたら、抵抗は静まるだろうという考え方がある。こうしたアプローチは効果があるのだろうか。マネジメントと従業員の関係が相互信頼と信用の上に成立している場合は、このアプローチには効果がある。しかしこのような条件が存在していなければ、変革が成功する可能性が低い。
(2)参加
意思決定に参加している人は通常、参加していない人に比べ最終的な結果に向けて最大限の努力を払おうとする。また、自分が変革の決定に参加していればその決定に抵抗することは難しい。そこで変革の前に反対する人々を決定プロセスに参加させるのだ。専門性を備え、意義ある貢献をもたらすものが決定に参加すればこのような関与による抵抗が減少し、関与の度合いも高まり変革意思決定の質が向上する。
(3)支援の提供
変革のエージェントは抵抗を減らすために、さまざまな支援策を提供できる。たとえば、相手の話によく耳を傾けることにより心配や共感を示したり、また従業員に対してカウンセリングやセラピーあるいは新しいスキルに関する研修などを提供したりする。
(4)変革を受け入れることに対する報酬。
報酬は行動を決定するうえで大きな要因となる。したがって、変革のエージェントは従業員に対し、変革を受け入れることを条件に魅力的な報酬を提供する必要がある。具体的には称賛や感謝の言葉から昇給や昇進までさまざまな報酬が含まれる。

以上のように変化への個人的抵抗とその対処法を述べてきたが、まだまだ、この分野に関しては、学術的だけではなく、実践的な研究が必要である。日々の業務を通じて、より実践的に変化へ抵抗を防ぐ方法を考えていきたい。