第5回 整理を拒否して能率を上げる

第5回 整理を拒否して能率を上げる
机を使い倒す50センチメソッド
葉玉 匡美 【プロフィール】
整理 勉強 検索 書類
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 机の上が汚い。小学生の時から30年間、机が何度変わろうとも、私の目の前の机は、すぐに本や資料で埋め尽くされる。天板は見えず、たまに雪崩も起こる。

 私の机を見た人が「これで、よく資料を見つけられますねえ」と感心してくれることもある。しかし、存在するはずの資料を発見できないことも多いので、その感心は勘違いである。若干、申し訳ない。

 ただ、「こんな状態じゃ勉強できないでしょ。片づけたらどうですか」と言う人に対しては「こんな状態だからこそ、能率的に勉強できるんだ」と言い返す。

 強がりではない。発想を転換してみよう。

 人は、なぜ資料を整理するのか。資料を探しやすくするためである。だから、整理法の本を見ると、資料の検索スピードを少しでも速めるために、いろんな工夫をして整理しようとする。

 では、180度見方を変え、机の上で資料を探すのをやめてみたら、どうだろう。

 資料を探さないのだから、整理する必要はなくなる。机は、資料を「使う場所」であり、「探す場所」ではないと割り切る。これが脱時空勉強術の机の使い方である。


50センチメソッド

 机は資料を使う場所だから、探しやすさではなく、使いやすさだけを追求すればよい。

 そこで、前回の情報3分法と同じように、机の上の資料を、課題処理(OUTPUT)というモノサシを使って配置してみる。すなわち、実際に課題処理のために使っている資料だけを、自分から半径50センチの半円内に平積みしていくのである。

 課題が増えてきて、50センチ半円のスペースがいっぱいになったら、あまり使ってなさそうな資料の上に、新しい資料を十字にして積み重ねる。とにかく、最新の資料を近くに見えるように置いていく。それ以外は気にしない。

 資料の山が大きくなりすぎて、今、使っている資料の表紙が見えなくなったら、山の頂上から3センチ分くらい取って、残りの資料は半円の外に押し出そう。なんなら、捨ててもよい。

 とにかく、50センチ半円の中で、今、使っている資料へのアクセス速度だけを追求する。これを「50センチメソッド」と名づける。


机はキャッシュ

 なぜ50センチかというと、体を動かさなくても手が届く距離だからだ。体を動かすのは面倒くさいし、体を動かさなくて済めば、情報へのアクセス速度は上がる。

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整理もしないし、体も動かさない50センチメソッドは、グータラの神髄である。しかし、このメソッドは、コンピューターのキャッシュ(cashe)と同じ原理を用いているので、課題処理の速度は確実に速くなる。

 キャッシュというのは、コンピューター技術の1つであり、使用頻度の高いデータを、高速な記憶装置(メモリーなど=キャッシュ)に蓄えておくことにより、低速な記憶装置(ハードディスクなど)から読み出す無駄を省いて高速化することを言う。

 机は高速なメモリー、本棚やキャビネットは低速なハードディスクである。課題処理をすればするほど、机の上(=キャッシュ)に頻繁に使う情報だけが自然と残り、アクセス速度と処理効率が上がる。


資料を探さなければならない時は?

 50センチメソッドに対しては、「昔の資料が必要になる時は、どうやって探すんだ」という疑問が起こるかもしれない。

 しかし、私の経験からすれば、現在、継続的に使っていないような資料を探さなければならない事態に陥ることは極めて希である。念のために資料を保管していても、99.9%読み直すことはない。本だって、2度以上読むのは、教科書や六法など常に使っている本だけだ。

 昔の資料への未練を断ち切ることが、時空を大事にするための出発点。それでは、今の仕事に必要な資料が、うっかり資料の山の中に紛れ込んだら、どうすればよいのか。

 その時は、10秒だけ机の上を探す。それで見つからなければ、パソコンでその資料のファイルを検索し、プリントアウトする。今時の資料は、自分で作ったファイルでも、他人が作ったファイルでも、ハードディスクに保存しているのが普通である。物理的な検索よりも、Google desktopWindows デスクトップサーチで探す方がよっぽど速い。

 プリントアウトは資源の無駄使いだと怒られそうだが、資源を使って、時間を買った方がよい。

 もし、ファイルがなければ、その資料を持っている友人に頼んで、コピーさせてもらう。整理整頓好きの友達がいると、借りる方が自分で探すより速い。たまに昼飯をおごるのがポイントだ。

 ファイルもなく、役立つ友人もいないのなら、データベースやインターネットで似たような情報を検索する。

 それでも、見つからないなら、その資料を使うのを止めよう。どうせ大した資料じゃない。普遍的な価値を持つ情報ならば別の資料にも同じ内容が載っているはずだし、そうでなければ時の経過により陳腐化していて使う意味がない。

 どんな場合でも、机の上をひっくり返して探すのだけは避けよう。せっかくキャッシュに蓄積された資料の位置が崩れ、大事な資料が山の中に埋もれてしまうこともある。

 書類は、いったん、山の中に埋もれてしまうと、探すのに膨大な時間がかかってしまう。

 それを避けるため、きれいに書類を整理しようとすると、また膨大な時間を食う。整理時間に見合うだけの検索時間の短縮ができることは、まずない。

 自分の周りを見回してみよう。「検索時間」や「整理時間」をたっぷりかけてまで、原本を探さなければならないような書類など存在しないはずだ。「検索時間」と「整理時間」を限りなく0にすれば、時間がみるみる生まれてくる。


50センチメソッドの適用範囲

 50センチメソッドは、机の使い方の技術であり、整理の技術ではない。だから、会社の受付の机など美観を大事にしなければならない机には向かない。このメソッドは、機能的ではあるが、機能美はない。

 また、50センチメソッドは、秘書のように特定の人のために資料を整理する仕事や、図書館のように多数の人が検索しやすいように本を分類する仕事には向かない。
 それから、契約書などの証拠物は、原本が大事だから、このメソッドの対象にはならない。証拠物は、机の上に放置したりせず、保管場所に戻そう。

 このように50センチメソッドには、向き不向きがあるが、情報を使いこなして定着させるためには、最適の方法論である。

 資料探しを始めると、すぐに物理的障害にぶち当たるため、課題処理が阻害される。物理的障害は、脱時空勉強術の敵である。だから、私は、探さない。

 「机の上の資料を探さない」と決意するだけで、その障害から解放され、気楽になる。 おまけに、時間も節約できて、能率も上がるから、万々歳である。

 50センチメソッドのせいで、机の上が汚くなっても、資料が紛失しても、トータルメリットが大きいから、それでよしとする。いい加減だけど、要点だけは押さえようとする真にO型向きの机の使い方である。