第3回 暗記を確実にする2×4法
無駄なことは覚えず、覚えたことは定着させる
葉玉 匡美 【プロフィール】
勉強 暗記 教養 キャリア
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 暗記が苦手である。とにかく、覚えたことをすぐ忘れる。だから、よく怒られる。子供の時は母から、学校では先生から、今は妻から。「忘れるのなら、メモを取れ」と怒られるが、どうせメモを置き忘れるから、メモは取らない。グータラである。

 そもそも世間に蔓延する「勉強=暗記」というイメージが私のような暗記恐怖症を生んでいる。昔、司法試験受験生が、六法全書を食べて暗記しているドラマがあった。私はグルメなので六法全書は食べないが、初心者の頃はそれくらい暗記しないと合格しない、と思っていた。

 ところが、弁護士の人と話してみると、六法全書なんかちっとも暗記していない。そのくせ法律のことをもっともらしく語り続ける。

 それで、分かった。

 意味も分からず丸暗記するのは駄目、忘却しても駄目。

 暗記と忘却の狭間に隠れていて、きっかけを与えると脳の奥底から浮かび上がってくる定着した知識こそ、一番必要とされているのである。司法試験に限らない。他の試験でも、仕事でも、問題解決のために役に立つのは、定着した知識である。

 脱時空勉強術は、課題を切断し、即時処理した後、処理した課題を結合させる。意味不明の情報の羅列では結合しようがない。

 だから、丸暗記よりも定着を優先させる。どうやって定着させるか。コツは
(1) 情報の意味を楽しむ。
(2) 教師になる。
(3) 暗記しないことで暗記する。
の3つである。


情報の意味を楽しむ

 脳とハードディスクの最大の違いは、脳は無意味な情報をそのまま記憶するのが苦手だということだ。

 例えば、歴史の年号を暗記したい時は、(1)「いい国作ろう、鎌倉幕府」などという語呂合わせで主要な出来事を覚え、(2)それを基点に前後する出来事をストーリー仕立てで覚えるのが王道である。これは、年号という無機質な情報に意味を持たせて、脳にメモしているのである。

 情報が興味深いものであればあるほど、脳に深く刻み込まれる。

 だから、情報をインプットする時に一番大事なことは、情報の持つ意味を理解し、それを楽しむことである。その場で確実に記憶しなくても、「へーっ、そうなんだ」と、うなずければよい。

 逆に、意味も分からないまま、丸暗記に時間を割いても時空の無駄使いというしかない。
 情報を意味不明のまま放置しないのは、定着の第一歩である
教師になる

 情報の意味を楽しんだ後は、記憶が新鮮なうちに、その情報を他人に教えてみよう。伝言ゲームではない。教師になるのである。

 他人が理解できるように自分の言葉で教えてみる。近くに話しを聴いてくれる人がいなければ、チワワのポチが相手でもよい。ただし、ポチに向かって語りかけている姿を他人に見られると、かなり恥ずかしい。

 暗記が目的ではないから、時間は短くてよい。情報のインプット後、すぐに3分間の授業。その繰り返し。時間がかかるなら、夕食の時家族に対してかいつまんで話してもよい。完璧な説明じゃなく、分かりやすさを重視する。インプットした情報を自分の言葉で説明することで、理解度を確認し、情報を定着させる。

 私は予備校講師の経験があるからこそ、教師になるのが一番の勉強術だと知っている。


暗記しないことで暗記する

 定着重視とはいえ、暗記しなければならない情報もある。法律の世界では、主要な条文番号や判例の結論。数学の世界では公式。定着した知識を頭から引き出してくるキッカケとなるキーワードや、思い出すスピードが要求される情報は、暗記せざるをえない。

 私の経験によれば、明確で確実な記憶を維持したければ、1週間に4回の記憶喚起を、直近2週間でやらなければならない。この2週間×4回の記憶喚起を「2×4(ツーバイフォー)」と名づけよう。

 人間の表面的な記憶は、結局、「その情報が、いつ、何回、頭を出入りしたか」によって、その濃度が決まる。だから、2×4でしつこく情報に触れていれば、その情報は自然と頭に残っている。

 2×4で大事なのは、情報量を絞ることである。情報量が増えれば、記憶喚起に時間がかかり、2×4ができなくなる。そして、忘却が始まる。だから、暗記すべきではない情報は、徹底的に切り捨てなければならない。暗記のために暗記を拒否するのである。

 脱時空式勉強術は「どう暗記するか」より「何を暗記するか」を重視する。「どのような情報の暗記を拒否して、情報を絞り込むか」が暗記のキモとなる。この「アンキモ」については、紙幅の関係で次回に詳しく説明することとしよう。

 「ケチケチせずに今教えればいいのに。そもそも、日経ビジネスオンラインは紙じゃないだろう」とツッコミを入れたあなた。

 こうした幕間の意味を楽しむことも、情報の定着には必要なのである