信頼とリーダーシップ

【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ
信頼あるいは信頼の欠如といった問題は、今日のマネージャーにとってますます重要な問題となっている。信頼についての定義づけをおこない、信頼性や信頼をどのようにして獲得していくかを考えていきたい。
信頼とは、相手が言葉や行動、あるいは決断を通して、日和見的な行動をしないであろうという前向きな期待をさす。

1.信頼の主要な要因
では信頼という概念の根底にある主要な要因とはどのようなことであろうか?最近の研究により、誠実性、能力、一貫性、忠誠心、開放性の五つの要因が特定されている。
(1)誠実性
誠意があり、信用に足ることを指す。五つの要因のうち、相手の信頼性を判断するうえで、もっとも、重要性が高いと考えられる。「道徳的人格」や「基本的な誠意」が感じられなければ、信頼のその他の要因は意味を持たない。
(2)能力
技術的及び対人的なスキルを含む。相手は自分の言っていることをよく理解したうえで話しているのだろうか。人は能力を尊重できないような相手に耳を傾けたり、そのような相手を頼ったりすることはないだろう。相手が口に出したことを実行するスキルや能力があると信じることができなければならない。
(3)一貫性
頼りがい、確実さ、状況処理における判断力に関係している。「言葉と行動が一致していなければ信頼は低下する。」この要因は特にマネージャーにとって重要なものである。「経営幹部が部下に教えることと部下にこうしてほしいと期待することに格差がある場合、部下は何よりもそうした矛盾には即座に気付くものである。」
(4)忠誠心
相手を守り、その顔を立てる意欲のこと。信頼とは、相手が日和見的な行動をとらないと信じることができる関係である。
開放性
信頼における最後の要因である。事実の全容を教えてくれる相手であれば、人は頼りにするだろう。

2.どのようにして信頼関係を築くか
信頼関係を構築する方法を身に付けたマネージャーは、ある共通の行動をとっている
こうしたマネージャーの成功例に基づき、いかに信頼を築く方法をまとめた。
(1)開放的である
不信感が生じるのは、相手について知っていることのみならず、知らないことからも生じる。したがって、相手に情報をあたえ、決定基準について明確にするように心がけ、自分が下した決断の根拠を説明し問題点についても率直に語り、また、関連情報を完全に開示することが必要である。
(2)公正である
意思決定や行動を実行に移す前に、相手がそれを客観性や公正さの点からどのように受け取るかを考慮しなければならない。評価されるべき相手を評価し、客観的かつ公平な業務評価を行い、相手が公平であるとみなすようなことが必要である
(3)感情を言葉に表す
厳然たる事実だけを告げるマネージャーは冷淡でよそよそしく感じられる。自分の気持ちを伝えれば、相手は生身の人間として見てくれるだろう。どのような人間であるかが分かれば、尊敬の念も増すことになる。
(4)真実を話す。
誠実性が信頼にとって重要であるならば、自分は真実を話す人であると相手に感じてもらわなければならない。一般的に部下は、マネージャーが自分たちに嘘をつくよりも、「聞きたくないこと」でも話してくれるほうがよいと考えている。
(5)一貫性を示す
人は予測可能性を好む。自分の価値観や信条についてもじっくり考えてみよう。そして、常にそれらに基づいて意思決定をすることである。
(6)約束を果たす
信頼を築く気付くためには、相手に自分は頼りがいがあると感じてもらうことが必要である。したがって、約束やコミットメントは確実に果たさなければならない。一旦約束したことは、必ず守らなければならない。
(7)秘密を守る
人は口が堅く頼りにできる相手を信頼する。相手から秘密を打ち明けられた場合には、他人に話をしたり、信頼を裏切ったりしないと相手に確信させる必要がある。
(8)能力を示す
技術的及び専門的能力を発揮し、部下の賞賛や尊敬を集めよう。特にコミュニケーションや交渉、その他の対人スキルを磨き、そうした能力を発揮することに力を入れる。